誰がために議会は在る

2004年12月17日

全国の市役所職員を対象にした業界紙に特集記事を書かせていただきました。
(この雑誌には3年前にも連載記事を書かせていただき、お世話になっています)
大方できていたのですが、仕上げが遅れてしまい、今日が締め切り日。
夜8時から京都行きの新快速の中でパソコン仕事、京都駅でメール送信して何とか間に合いました。

タイトルは「誰がために議会は在る」。
私が議会改革について日頃あれこれ考えていることを、整理してまとめたものです。

以下、提出した原稿です。

041217「誰がために議会は在る」


誰のための議会改革か?

地方分権が進み、地方議会の重要性が以前より高まっているという。
にもかかわらず、現状の地方議会はどこもパッとしない。
何か問題がある、何かが間違っている、今こそ議会改革が必要だ・・・というのが、
議会改革をめぐるストーリーの一般的な書き出しだろう。

実際に、議会の問題点は多岐に渡っており、
それらひとつひとつに対症療法を施すだけでも、莫大なエネルギーが必要とされる。
その過程で忘れられがちなのが、「誰のための議会改革か?」という本質的な問い掛けである。
この問いの答えは明らかであり、『住民のため』という答えに正面から異論を挟む者はいない。

しかしながら、現実の議会改革事例の中には、住民のためとは思えないような例も多い。
「スムーズな議会運営」という名目で結果的にはチェックされる側の役所を利するような改革、
議員の自己満足や「改革はすでに始めています」というアリバイ作りのための改革などである。
マスコミや街中で議会改革を求める声がいま一つ高まらないのは、
「議会改革は住民のためになる」というビジョンが描き切れていないからではないだろうか。

本稿では『住民のための議会改革』という大命題に沿って、
現実的な対症療法から将来像までを考えてみたい。


二つの基本方針と、二つの必要条件

『住民のための議会改革』を行うにあたって、目指すべき議会の理想像とはどのようなものだろうか。
そもそも何のために議会が設置されているかを考えれば、この答えも自ずと明らかである。
住民が役所をコントロールし、
住民が自分たちの払った税金の使い道を決定するために議会を設置したのであるから、
「住民が役所と税金の使い道をコントロールするためのツールとしての議会」、
これが『住民のための議会改革』が目指すべき議会像ではないだろうか。

しかし、それだけではまだ足りない。
そのような議会が制度的に実現されても、
議会を構成する議員に年齢・性別・職業・地域・その他の偏りがある場合、
議会は民意とのズレを孕んだまま運営されることになる。
議会の現実を身も蓋もない一言で表現するならば、「議会のメンバー構成=結論そのもの」である。
子育てから遠ざかった中高年男性議員ばかりで構成される委員会で「子育て政策」を話し合ったところで、
出てくる結論は当事者の実情から乖離したのもとなる。
次代にツケを残す市債発行に歯止めがかからないのも、現在の議会の年齢構成と無関係ではない。
「多様な住民構成をコンパクトに代表する議会」、これが目指すべき議会像の二点目であろう。

以上二点の基本方針の他に、税金で運営される公的機関として、
最低限満たさなければならない必要条件が二つある。
「議会運営そのものにかかる税金の無駄遣いを無くし、コストパフォーマンスを高める」ということと、
「議会運営そのものの透明性を高め、説明責任を果たす」ということである。
議会を監視する機関が存在しないために、
議会における税金の無駄遣いや不透明な議会運営は長年放置されて来た。
そして現在、議会に対する住民の信頼と期待は著しく低下している。
これら二つの必要条件をクリアすることが、
『住民のための議会改革』を成功させる大前提であると言える。

次項からは二つの基本方針と二つの必要条件に沿って、
具体的に改善・改革の方策について知恵を絞ってみることにしよう。


①住民のツールとしての議会

住民が議会を通じて役所をコントロールするためには、
まず議会が役所をコントロールできる環境でなければならない。
しかし現実には、役所が議会および議員をコントロールできるような議会運営が行われている。
本会議における再質問の回数制限などがその例で、
答弁をする役所幹部に「あと一回答えをはぐらかせば、それで逃げ切れる」という安心感を与え、
不誠実な繰り返し答弁が横行する原因になっている。
同様に、議員の持ち時間の中に答弁時間も含めている多くの議会では、
役所幹部が無駄に長い答弁で議員の質問時間を削るというスタイルが定着してしまっている。
質問回数無制限・一問一答制、そして持ち時間に答弁時間を含まないように改善することで、
少なくとも議場では議員が主導権を握れるようになり、
密度の濃い本質的な議論が行われる可能性が高まる。

もう一つ疑問視しているのが、発言内容を事前に通告する制度・慣習である。
誰がいつ発言するかを予め把握しておきたいという、議会運営上の趣旨は分かるとしても、
質問の内容までが事前に役所側に漏れてしまうのは問題であろう。
質問内容は議員個々の良識に任せ、
その場にふさわしくない質問内容であった場合は議長が発言を整理するのが、
本来の議会運営のあり方ではないだろうか。
役所職員が事前に質問内容を尋ねに来る「質問取り」と呼ばれる慣習についても同様である。

役所と議会の馴れ合い体質も、住民から批判されて久しい。
議員からの要求を役所側が多少無理をして聞く代わりに、
その議員は厳しい質問を公の場で控え、役所の提出した議案や予算案に賛成する。
「口利き防止条例」や「不当要求防止条例」を設けることで、
役所と議会の馴れ合い体質にピリオドを打ちたい。

役所と議会が緊張感のある関係を築き、議会が役所をコントロールできる体制を整えると同時に、
住民が議会をコントロールする方策も考えなければいけない。
住民が議会をコントロールする機会は、現状では選挙、請願・陳情など限られている。
特に、最大の機会である選挙において、
有権者と候補者、そして住民全体と議会全体の政策的なズレを最小限にする工夫が必要だ。
例えば現職の候補者であれば、在任中にどの議案に賛成してどの議案に反対したのか、
こういう決定的な情報が有権者には知らされていないことが多い。
NPOなど多様な主体が議員の比較リストやアンケート回答結果といった情報を発信できるよう、
制度改正を望みたい。

請願・陳情では、住民に委員会冒頭の口頭陳述を許すのはもちろん、
各委員の意見決定の直前に再度陳述する機会や、議員から陳情者に逆質問する機会を設けるのはどうか。
そうすることで結論はともかく、議論の過程は陳情者の意向に沿って展開されることが期待できる。

その他、役所から議会に議案が提出されると同時に、
議会が独自で全議案についてパブリックコメントを行うことも可能である。
そこまで出来なくとも、会派や議員個人で定例議会前に住民を招いて、
公聴会や議案勉強会を開いている例はある。
多様な住民から寄せられた疑問や指摘に基づいて議員が役所に質問するもよし、
パブリックコメントの過程を賛否の判断材料にする議員が現れるのも悪いことではない。


②多様性とバランスを備えた議会

二つ目の基本方針である「多様な住民構成をコンパクトに代表する議会」を実現するためには、
どのような方策が考えられるだろうか?
議員構成に明らかな偏りがある現状では、
特定の議題について議会が公聴会や市民委員会を主催するのが現実的な解決方法になる。
障害者問題や子育て問題など、議会内に当事者がいない場合でも、
当事者を集めて一緒に議論すればズレは最小限に抑えられる。

議会に多様性をもたらす理想的な制度は、
女性議員や若年議員などの比率が一定水準以下になってはならないとする「クォータ制」であろう。
もう少し緩やかに実現するのであれば、
各政党・政治団体が選挙時に擁立する候補者リストに「クォータ制」を適用し、
有権者の選択の幅を広げる方法がある。
こういった案は荒唐無稽に思われるかも知れないが、
例えば政令市では区ごとの有権者数に応じて議員定数が定められている。
そのようにすることで、広大な市域において議員が
地域的に偏在してしまうのを防いでいるとも考えられる。

会社労働者、いわゆるサラリーマンやOLが立候補する際のリスクを減らすための休職制度や復職制度も、
議会における職業的な偏りを是正するために有効だ。
将来的には諸外国のように、
会社に勤めながら議会にも出られるような夜間・休日開催の議会、
わずかな出席手当てのみで無給のボランティア議員、
という形に辿り着くかも知れない。

その他、すでに好例があるように、
女性や若者を議会に送り出す市民運動も現実的で有効な方策と言える。
前項でも少し触れたように、議会改革において選挙の占める比重は非常に大きい。
極論すれば、議会改革は議員改革であり、選挙改革である。


③コストパフォーマンスの高い議会

「役所の高コスト体質をとやかく言う前に、自分たち議会のことを何とかして欲しい」。
さすがに面と向かって議員に言う職員はいないものの、
他都市の職員と話しているとそのような本音が聞こえて来る。
「費用弁償」と称する議会出席手当てを未だに温存している議会、
多額の予算を消化するためとも思える長距離移動が目立つ行政視察、
「北米十日間で百万円」が相場の海外視察など、必要性や適正額を再考すべき制度は数多い。

各議員への資料提供や、発言してから三ヵ月経たないと完成しない議事録など、
前時代的な方法で時間とコストをかけ過ぎている業務も少なくない。
議会に外部監査を導入してみれば、より多くの問題点が明らかになるだろう。


④説明責任を果たす議会

議会が情報公開条例の対象になったのは役所より随分と後である。
未だに委員会の傍聴を認めない議会や、委員会の議事録を公開しない議会も存在する。
全員協議会や理事会などのいわゆる「秘密会」も根強く残っている。
政務調査費の領収書を公開しない議会は、
税金の使い道に対する説明責任を果たしていると言えるだろうか?

議会の広報にも工夫の余地が大いに残されている。
本会議や委員会の録音・録画を禁止している議会もあるが、
今や全ての議事をケーブルテレビやインターネットで動画中継する時代である。
誰が、どのタイミングで何を発言し、議会全体としてどのような結論になったのか、
過程も含めて公開することで責任の所在もはっきりする。
先に述べた各議員の議案に対する賛否を記録・公開することも同様の意義を持つ。

閑散としている傍聴席に対しても、働きかけるべきことは多い。
議場に資料説明用のプロジェクターを置いた議会もあるが、
そこまで出来なくとも、傍聴席にはもう少し詳しい資料を配布すべきである。
土日・夜間議会や出前委員会についても、より多様な住民に生の議会を見てもらう機会として、
期待するほど傍聴者が増えないにしても開催する価値はある。


それでも議会は・・・

ここまで改革を進めても、住民が議会を必要としてくれるかどうか、実のところは分からない。
街中には「議会を無くすことが最善の改革」という厳しい声もあり、
都市部の地方選挙では投票率の低下に歯止めがかからない。
役所は独自の市民参画制度を整備し、住民と直接対話に入っている。
その役所すら飛び越えて(議会は言うまでもなく)、
役所にも頼らず地域を改善して行こうという地域活動やNPO・企業も現れて来た。

包括外部監査や事務事業評価など、「議会機能の民営化」とも呼べる事態が進行する中で、
それでも議会は顧客たる住民のために、議会をまだ見捨てていない心ある住民と共に、
内から外から改革に励むより他に道は無いのである。

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コメント

  1. ロペス
    2004年12月23日 17:30

    苦労してるね、井坂クン。
    覚えてる?サークルの2年センパイのロペッチですよ。

    まあ、議会が君の思うようにならない苛立ちと絶望感
    は想像に難くない。しかし、議会を変えることが”目的”
    になってしまってはイカンぞ。それは決して目的ではなく
    民衆を救う”手段”に過ぎない。

    君のような素晴らしい考えを、ミュージシャンシップに
    乗せて民衆に訴えかけるような政治家は、もっと上を目指す
    べきと思うなぁ。神戸市議会がつまらないなら、何故国会に
    打って出ないのだ?

    今の自民党では日本は沈む。日本を根底から変えて救ってくれ。
    アジアを一つにして、帝国主義と戦ってこれを打ち破る体力
    を授けてくだされ。

    上海の飲料工場で奮闘する労働者の一員として、君のポテンシャル
    に期待したいのだ。今後とも頑張ってくれたまえ。
    俺は音楽の力で中国人の意識改革を試みてみるよ。^^では。

  2. いさか
    2004年12月25日 00:30

    ロペスさんお久しぶりです!
    今は上海で歌って(笑)いらっしゃるのですね。

    「議会を変えることは民衆を救う“手段”である」というのは同感で、
    まさにその趣旨の論文を書いたつもりなんですけど・・・

  3. 本河
    2005年02月26日 17:37

    またまた本河です。
    久しぶりに井坂さんのサイトをじっくり見ましたが、とても勉強になります。

    「アジア太平洋みどりの京都会議2005」が終わって、次の私の関心は、2007年の地方統一選に向けて、地方議員選挙における投票の判断材料をどのように提供したら良いか、ということです。

    首長選挙だと、「ローカル・マニフェスト」と「マニフェスト型公開討論会」の流れが主流になると思うのですが、地方議員選挙については、マニフェストってのもちょっと違う気がするし、公開討論会もできないことはないと思いますが、候補者全員を集めるのはまず不可能でしょう。

    有力なのは、現職候補については、在任中にどの議案に賛成してどの議案に反対したのかのリストを公開すること、あとは公開質問状の類でしょうか。

    ですが、前者について、4年間の全議案数となるとかなりの数になりますし、リストを作ってもそれだけで有権者はウンザリしてしまいそう…。また、議会にもよるのかもしれませんが、誰がどの議案に賛成したのかという情報は、公開されている議事録には載ってなくありません? 「賛成多数」といった感じの記載しかないような…。議会事務局(&議長ほか全議員?)は事前に賛否を把握しているんでしょうけど、これってすんなり情報公開していただけるんですかねぇ??

    地方議員選挙における投票判断材料として、何か他に良いアイデアがありましたら、教えてください。あと、私と同じ問題意識を持った方の先行事例をご存知でしたら、教えていただけませんか?

  4. いさか
    2005年03月06日 22:04

    本河さんコメントありがとうございます。
    議会事務局には各会派の賛否リストが定例議会ごとに作られているはずなので、
    情報公開請求すれば何らかの書類は出てくると思いますよ。

    ほかに地方議会選挙の判断材料として提供したら良さそうなものは、
    各議員の本会議質問時間数や、質問タイトル(または要旨)でしょうか。
    「本会議場で市長に質問をぶつけられる」というのが議員の最大の特権であり、
    その特権を活かして有権者の代わりに何を発言しているか?という視点で比べるのです。






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